直江につれられて少しこ洒落たレストランに入る。
いちいちエスコートされるのにむかついたが、たぶんこれくらいの男になると
クセのようにでもなってるんだろう。
そこは品のいい感じの、けどけしてとっつきにくくはない雰囲気のいい店だった
「いつもこんな店利用してるのか?」
「いいえ」
「けど結構慣れてる感じがしたぜ?」
「そうですか?」
「いいって。女と来てたんだろ?」
「違いますよ」
焦らせてやろうと少し探ってみる。
けど直江は少しも焦ったふうでもなく少し笑んでいるだけだった。
「違うって本当か?オレに嘘ついてもしょうがないだろ」
「違いますよ。けどここは特別なお店です」
そういってオレのグラスにワインをそそぐ
「特別って?」
「ここは兄が義姉にプロポーズしたレストランです。
兄から本気で好きな人ができたらここに連れてこいと言われました」
そう幸せそうに微笑む。
その顔を見てなんとなくバツが悪くなってしまった。
「…お前本当にオレのこと…」
「ええ、あなたが好きです。自分でもとまどうくらいに」
「……」
とても雰囲気のいいレストランで、
ストレートな告白をうけてしまい、なんだか照れてしまう。
「乾杯を」
「なんに」
「そうですね…とりあえずあなたの首のアザが消えたことに」
「はは。いいぜ」
ユーモアのセンスまでもってるときた。
これはかなり分が悪い…乾杯をしたワインを一気にあおった。

おいしい食事と、それによくあうワイン。
気付いたらすこし頬が熱くなってきていた。
自分が酒にあまり強くないと分かっていたからセーブするつもりだったのに
「…はめられた」
「どうしました?」
「いえ…なんでもない」
だが体中にまわったアルコールをすぐとりのぞくことなんて
できるわけもなく。自分の手で頬を冷やしたりしていたのだが
「もしかして高耶さん…あなたお酒に強くないんですか?」
あっさりと直江にばれてしまった。
「…いや、ちょっと飲み過ぎただけだ」
「それ以上飲まないで。水を頼みますから」
そういうと直江がボーイに水を頼んでくれた。
ぼんやりとその姿を眺める。
むかつくくらいいい男だ。
「高耶さんお水です。」
「わりい。…お前そんな容姿よくて、頭よくて、女なんかはいてすてるほど
よりどりみどりだろうに。オレがただ物珍しいだけだろ」
ついうっかり直江に絡んでしまった。いけないと思ったのだが口がとまらない。
「お前の物になったら興味をなくすくせに」
「いいえ」
直江のすこし固い声がした。その声色で直江を怒らせてしまったのだと分かった。
「…嘘だ」
「嘘じゃありません。…今日は帰りましょう。タクシーを呼びます」
「なんだよ。よっぱらってんだぜオレ。どっかホテルに連れ込むんじゃないのか」
「…帰りますよ」
「…」
そういって店から連れ出された。
まだ少し寒い夜の空気が少し正気を戻す。
ああ、直江がせっかく用意してくれたのに。最悪だ。

「ふざけんなよお前!いままでの苦労をなんだと思ってんだ!
取り逃がしたですむ話しじゃねーぞ!」
「ちょ…!無理いうなよ!!」
「無理じゃねえだろうが!だいたい写真とってる暇があるならつかまえろ!!」
「おーおー荒れてんねえ大将」
「ちょ!助けろよ!仰木が無茶いうんだ〜」
「それくらいにしとけよ。だいたい向こうさんもアホじゃねーんだから。
俺らの行動だって読んでくるだろ。らしくねーな」
「…」
「助かった〜。あとはよろしく!」
「…あのやろう」
「プライベートでいやなことがあったからって人にあたりちらすな。迷惑だ」
「…。」
「なんだよ。からかってやったんだろ?それとも本気で食われたのか?」
「…オレが酔っぱらってむりやり帰されただけだ」
「は?なに。それだけであんなにあたりちらしてたのか。」
「…それだけ…」
そういってため息をつく。そうだ。たかがそれだけの事なのに。
自分がひどく落ち込んでいる事実に戸惑いと嫌気がさしてくる
「だからやめとけっていったろーが。人の忠告は聞いとけよ。
あと仕事にプライベートを持ち込むな。また首しめられっぞ」
「…わかってる」
あかっているはずなのに。あれから直江からのコンタクトがない。
こちらからメールなりすべきなのに。なぜだかできずにいた
「……わりい。ちゃんとする」
「そうしてくれ。ほれ。」
「?なんだ?」
それは綺麗な文字でかかれた書類だった。
直江の文字だ。
思わず千秋をふりかえると面白そうに笑っていた
「で、これはお前にだとよ」
そこには二日酔いにきく薬だのレシピだのがかいたものと
また食事に。というメモだった。
それだけのことなのになぜかひどくほっとした。
これはなんだろう。あいつにほだされてしまったのだろうか。
直江の部署に行く。いろいろお礼をいうためだと自分をいいきかせて。
言い聞かせている時点でもうかなりダメな感じがしてきたのだが。
直江がこちらに気付いて微笑む。
「二日酔いとかは大丈夫ですか?」
「ああ、かっこわるいとこ見せちまったな」
「じゃあおあいこですね」
「?なんで」
「私も一番最初あなたに最高にかっこわるい所をみせましたし」
「ああ、あれか。そんなこともあったな」
思わず笑ってしまった。それを見た直江がまたしても嬉しそうに笑む。
なんでもかんでもオレの事を考えてくれている。
おまけにこの笑顔。
「お前本当いい男だよな」
「なんですか急に。誉めてくれるのは悪い気はしませんが」
「女がほおっておかないだろ?」
「私がほおっておきますから」
「おいおいひでーな」
「あなたこそ。何故そんなに私に女をあてがおうとするんです?
私が好きなのはあなただと言っているのに」
そういって顔から笑みが消えた。
ああ、どうして毎回いらない事ばかり言ってしまうのだろう。
思わず黙り込んでしまう
「もし、私に1パーセントの望みすらないのでしたらはっきりと断ってください。」
違う。そうじゃないといいかけて口をつぐんでしまった。
『違う』と否定しようとした自分に驚いてしまった。
もう、きっと、答えはとっくに出ていたのだと。
「…すいません。忘れてください。仕事に戻ります」
そういってきびすを返した直江のスーツのすそを反射的につかんでしまった。
反射的に直江のスーツのスソをつかんでしまった。
直江が驚いた表情でこちらを振り向く。
しまった。何をしているのだろう。
思わず頭が真っ白になってしまった。
なにかいわなければ。
でも何を。
行かないでくれ。と?
お前がきになってしかたないから。と?
「…高耶さん?」
直江が何も言わないオレをいぶかしんでくる。
「大丈夫ですか?」
もう一度のぞきこんでくる。
「うわっ!わりい!!」
「いえ、大丈夫ですよ」
「いや…その…」
舌がまわらない。いつもはもっとうまくしゃべれるのに。
「高耶さん。すいませんあなたを困らせるつもりはなかったんです」
「いや、オレも…その…お前を嫌いなわけじゃないんだ」
「わかっています」
そう目を細めて優しく笑う。
「また食事にいきましょう」
「ああ」
なにをうじうじとしているんだろう。こんなのはオレらしくない
オレと直江は部署が違うので頻繁に行き来するとかなり目立つ。
最近は直江以外にも挨拶するくらい顔が知れ渡ってしまった。
「直江」
「高耶さん。仕事の方はどうですか」
どんなに忙しそうにしていても直江はオレを邪険にはしない。
「これからしばらくかり出される」
「じゃあ毎日顔は見れないんですか」
残念そうに笑う直江。
「それで、お前にプロファイリングしてもらいたいもんがあるんだ」
「いいですよ。あなたのお役にたてるなら喜んで」
「お前少しは断れよ」
「私の株をあげるためでしたら」
「…お前なあ」
直江のストレートな物言いはとても居心地がいい。
だがいつまでも直江に甘えてばかりもいけない。
「一通りの資料をいただければ」
「…」
手にもっていた資料を直江に差し出す。
ざっと目を通した直江の表情がこわばる。
「高耶さん、これは…みるかぎりあなたの…」
「そう、オレの資料」
「…」
「オレがお前の事をどう思ってるかプロファイリングしてもらえないか。」
直江の表情が困ったような笑みになる。
「…それは自分で見つけていただけませんか。」
「自信がないのか」
「いいえ。できればあなたが自分で自覚した気持ちを聞きたいですね。
私の回答にイエスかノーで応えるだけではなくて」
「だったらとりあえずその手元にある資料を見てくれ。
…帰ってきたら…」
そういって少し笑んで直江のデスクを後にした。
早く帰って来たい気持ちと、帰ってきたくないような複雑な気持ちで。