高耶さんが仕事で出てしまってから、渡されていた資料に手をつけられずにいた。
彼自身が私をどう思っているかプロファイリングしろと渡された資料。
この資料がフェイクということもある。
もしくは全部が真実かもしれない。
仕事のプロファイリングといささか状況が違うのだが。
いままでの態度と、私を試そうとしている行動からかなり結果はでているのだが。
とりあえず彼の用意した資料をひらいてみる。
そこには彼の手書きで文章が書いてあった。
彼の性格をあらわすような文字で。
思わず彼の笑顔を思い出す。報告書やらが苦手だと笑っていた。
そこにかかれてあったのは私の第一印象からの感想というか、
彼なりに私のプロファイリングをしたらしいことが書いてあった。
私の癖だとか、私がタラシだとか、片親はイタリアかラテン系かなどなど
微笑ましいというか彼が私を観察して、書いたらしいものだった。
彼は恋をしたことがないからとまどっているということ。
キスも初めてだったということ。
そして続きは自分の口で言うことがかいてあった。
思わず笑みがうかび、口元を隠す。
これはラブレターではないか。ほとんど。
ああ、彼はいつ帰ってくるのだろうか。
抱き締めても、怒られないだろうか。

ようやく仕事が一段落して帰ってこれた。
デスクの上にはメモが張ってあった。直江の文字だ。
「帰ってきたら連絡を。」
随分長い間顔を見ていない気がした。
実際はそんなに長い間でもないのだが。
とりあえず直江の部署を覗いてみる。
少し顔をみてまた改めてくるつもりだったのになぜか直江がすぐに気付いて
こちらにきた。
ものすごい笑みをうかべて。
あまりの笑顔にたじろいでしまった。
なんでそんなに嬉しそうにするのか。こちらが恥ずかしくなるくらいに。
「高耶さんお帰りなさい」
「…おお、元気そうだな」
「あなたの帰りを待ちわびてましたよ。今晩お暇ですか?」
「え?いや、予定はないけど」
「でしたら食事に行きませんか。あなたに頼まれていたプロファイリング。
私の予想を聞いていただきたいのですが」
「…そうだな。なら、今夜」
「時間などはまた連絡します。後で」
「ああ、またな」
そういって直江に背をむけた。
直江の視線が絡み付いてくる。それをふりきるように足早に去った。
直江へ自分の気持ちを伝える。
今追いかけている犯罪者を捕まえるよりとても簡単なことなのに。
簡単な事なのに、ここまでかかってしまった。
今日、オレと直江の関係は変わるだろうか

いよいよ直江との食事。
場所は以前と同じところだったが、今回はアルコールはなしにされた。
「酔ったあなたも素敵なんですが、今日はシラフで話しをさせてください」
「わかってる」
妙にのどが乾く。水を一気に流し込んで覚悟をきめる。
「で、プロファイリングの予想はどうだ?」
そういって直江の返答をまつのだが、直江は嬉しそうに微笑むだけ。
「もったいぶるなよ」
「もったいぶってるのは私ではないですよ」
そう言われて言葉がつまる。
痛いところをつかれてしまった。
「そうですね…私がみたところ、この犯人さんは捕まえて欲しそうだと
いうことですね」
「…」
「捕まえるのはそう難しくはないという事がわかりました。ですが」
「…なにか問題でもあるのか?」
そうこわごわと聞くと、直江はまた笑って
「まだ戸惑っているように見えます。
確実に言い切ることができない。違いますか」
「…さすがプロは違うな。そう、決定打が欲しい」
「どうすれば決定打になりますかね」
直江はおもしろそうに、けど嬉しそうに微笑んでばかりだ。
「…手」
「?」
「手を出せ」
「手…ですか」
差し出された直江の手を握る。
直江は驚いた顔をしたが、すぐにまた笑顔を浮かべた。
直江の指を撫でるように触る。
1本1本。指の形にそうように。爪も。
もっと触りたい。そう思ってしまった。
「直江…」
「…場所を変えますか」
直江がそう低く囁いてきた。
それに小さく頷いて、ふりきるように立ち上がった。
レストランから場所を移動するために外にでる。
「どこに行きましょうか」
「…」
「今日も食事だけの予定でしたから…後のことを考えてませんでした」
「…」
「高耶さん?」
返事をしないオレを直江が覗き込んでくる。
人の事を押さえ付けてキスしてきた男。
最低野郎だったのに。
いつのまにかこんなに心に入り込んできていた。
「…なあ、オレのこと好きか」
直江を見上げてそう聞く。すると直江の顔から笑顔が消えた。
「あなたが好きです」
そうオレの目をまっすぐ見て答える。
「…お前がうらやましい。」
「何故ですか?」
「オレよくわからないんだ。人を好きになるってのが。いいきれるお前がうらやましい。」
「…高耶さんは私のこと嫌いではないでしょう?」
直江が優しい声で聞いてくる。
「嫌いではないな…」
「今はそれだけでも充分ですよ」
そう嬉しそうに直江が微笑む。
「…触ってもいいか」
「あなたなら大歓迎ですよ」
手をのばして直江の頬にふれた。
優しく微笑む男の顔を撫でる。
「……」
だが直江からはなにもしてこない。嬉しそうに微笑むだけで。
どうにも受け身に徹するらしい。動かない男になぜかいらだってくる。
「なあ、かなりいいムードだと思うんだけど」
「そうですね」
「…なんでなにもしないんだ」
「もう最低野郎と言われたくないので」
「ならしてもいいって言ったら?」
「…高耶さん。私とキスしたいですか」
あくまでも受け身だが主導権はにぎりたいらしい。
そんな男にすこしいらだつが、オレが主導権を握りかえせばいい
「したい。キスしろ」
直江は微笑んで
「決定打ですね」
そう言ってオレの唇を指でなぞった
軽く唇が触れてくる。
まるで初めての口付けをするこどものように。
じっと直江の顔をみていたのだが、直江はまた少し笑って
「キスをする時は目をつぶるものですよ」
「…オレは学校では相手の腹をさぐるときは目を見ろと
教えられた。そしてそらすなと」
「…いまさらなにをさぐるんです?」
「お前が何を考えているか」
直江の頬をなぞるとその手を捕まえられ、壁にぬいつけられるように指を
からめられた。
指の間に直江の指が絡む。
それはひどく熱くてたまらなかった
「何を考えているか?教えてあげましょうか」
「冗談だって。どうせろくでもないことだろ」
「そうみえました?」
「オレのことをどう料理してやろうかって目してたぜ」
「…お見通しですか」
そういって笑う直江につられて笑みがうかぶ。
直江が顔をまた近付けてきた。今度は目を瞑る。
だがそこに不粋な音が鳴り響く
「…呼び出しのようです。少しすいません」
「……」
すぐに直江が離れて携帯にでる。
なんだかおもしろくない。
自分たちの仕事が大事なのは百も承知なんだけれども。
これも直江の計算のうちなのかと思ってしまうタイミングだ。
「すいません高耶さん。すぐ戻らなければならなくなりました。
埋め合わせはまたどこかゆっくりできるところで」
「そうだな。そうしてくれ」
そういってバイクのほうに歩きだしたのだが
「あ、高耶さん忘れ物です」
「忘れ物?」
振り向くと同時に直江の腕の中におさめられ
熱い口付けを受けていた。

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